3密対策と電子カルテのクラーク運用
2013年に開始した電子カルテのクラーク運用による業務改善も、今年(2020年)で早8年目に突入した。これまでの研修の経緯とともに、現在の新たなニーズについて解説する。
東京、大阪に養成講座を開設
当初は、電子カルテ操作から医師を解放することで「診療に集中できる環境を作りたい」という思いから、クラーク運用を行っている医療機関とともに、クラーク運用の仕組み、クラークの育成のポイントをまとめ、「養成講座」としてクラークの育成に貢献するを開始した。東京、大阪での通常講座のほか、出張講座として全国でキャラバン的に講座を開いた。
医師の負担軽減と待ち時間の短縮
当時の診療所のニーズは、混雑している診療所の院長が自らの「負担軽減」のために、電子カルテのクラーク運用を考えるというものであった。また、「待ち時間の短縮」のために診療スピードを上げることを期待し、クラーク運用を導入したいという要望も多かった。
多種多彩な状況に対応できるよう「訪問研修」を開始
実際に養成講座を進めているうちに、診療所では様々な運用スタイルがあることに気付いた。診療科ごとの診療の流れ、カルテの記載、スタッフの配置、部屋数、電子カルテの端末数など、それらの多種多彩な状況に対応するために、集合型の研修では個別の細かい要望に応えることが難しいと考えて、「訪問研修」をスタートした。
クラーク運用は診療所のオペレーション変革
現地に訪問して、実際の環境に合わせてクラーク運用をお手伝いしていく中で、様々な要望をいただいた。医師の負担軽減、待ち時間の短縮以外には以下のような内容が多かった。
・「複数の診察室」で並行して患者の診療にあたりたい。
・看護師、看護助手、医療事務の「共通スキル」として、クラークを位置付けたい。
・医療事務からクラークへと、スタッフの「キャリアアップ」の流れを作りたい。
・狭い場所でもクラーク運用ができるよう、「レイアウトの変更」を考えてほしい。
・「代診(アルバイト)の先生が勤務しやすい」ようにクラークを配置したい。
クラーク講座がいつのまにか、診療所のオペレーション変革のためのコンサルに変化していった。様々な現場の要求に対応できるようになった一方で、診療現場の様々な要望は果てしないことに気が付いた。
専門学校とのコラボ講座、医療事務から医療クラークへ
また、専門学校とのコラボ講座においては、将来を見据えて、医療事務から医療クラークへの転換を手伝ってほしいという要望をいただき、2016年から、通年のクラーク講座を設置した。それまでの電子カルテの研修を刷新して、クラーク研修をメインにリニューアルした。現在は地域の医療機関から多くの採用の依頼が来ており、生徒数も2倍に増え、人気の講座となっている。
コロナ禍で新たなニーズが
新型コロナウイルスが猛威を振るっている昨今では、新たな要望が出てきている。それは「3密対策」としてのクラーク運用である。院内での感染防止対策として、多くの診療所は「密集」「密閉」「密接」という3密を避けることが必要となっている。そのためには、患者同士の距離(ディスタンス)を確保する必要がある。たとえば、待合室の席を減らしたり、予約システムを導入したり、なんとか待合室での密集を減らす努力を多くの診療所が行っている。しかしながら、これらの運用では患者自体が減ってしまうため、躊躇する診療所も多い。そこで、患者の「滞在時間」に注目する必要があるのだ。患者一人当たりの滞在時間を減らすことで、密が軽減できるのではないかという考え方だ。
3密を避けるために「自動化」と「業務分散」を進める
まず、予約システムや順番管理システム、Web問診などのIT化により、待合室での滞在時間を少なくする。次に、クラーク運用によって、診察室での滞在時間を少なくする。そして、次回の予約をとって、患者に帰宅いただく。患者は、予約時間、または自分の順番になったら来院するという行動に変わり、診療側は事前に患者の問診をとっていることで、十分な準備が行える。診療は医師、看護師、クラークが業務分担を行っているため、効率的な運用が時間短縮につながる。コロナ禍の3密を避けるためには、「自動化」と「業務分散」が有効なのだ。
現在、3密対策としてシステム化を進めている診療所は多いと思われる。しかしながら、ハード面だけの改革だけでなく、ソフト面での改革も必要である。目的と結果を一致させるためにもクラーク運用をぜひ活用してほしい。