オンライン資格確認の今後の行方
6月に取りまとめられる予定の「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」について、内閣府の経済財政諮問会議で議論が進められています。その中でマイナンバーの健康保険証の利用について、健康保険証自体を廃止するとの案が盛り込まれるのでないかとニュース等で報じられています。そこで、マイナンバーを活用したオンライン資格確認の現状について解説します。
オンライン資格確認の普及状況
5月8日時点では、カードリーダー申込率が57.6%、接続率(準備完了医療機関)が24.1%、参加率(運用医療機関)が18.7%となっています。2021年10月の運用開始から半年が経とうとしている現在、まだ約2割の医療機関しか、オンライン資格確認の利用が進んでいないという状況です。
オンライン資格確認推進協議会
普及が遅れている状況について、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の3師会は「オンライン資格確認推進協議会」を立ち上げ、5月11日に第1回目の会議が行われました。同協議会の立ち上げの経緯として、「令和3年10月20日から本格運用が始まっているオンライン資格確認については、導入に必要となる顔認証付きカードリーダーの申込数が、全医療機関・薬局の約6割となっているなかで、様々な課題があるため、実際に運用を開始している施設は約1割となっています。三師会としては、医療機関間での情報共有を進め、安心・安全で質の高い医療を提供していくデータヘルスの基盤として、オンライン資格確認の導入を推進していく必要があると考えており、これまでも様々な取組を行ってきました。令和5年3月末までに、おおむね全ての医療機関・薬局での導入を目指すという政府目標が掲げられています。こうした中で、関係者と連携して課題を解決し、導入を加速化させていくため、医療関係団体によりオンライン資格確認推進協議会を立ち上げました」としています。
普及が遅れている理由
5月11日の会議で日本医師会は、2022年4月に都道府県医師会からオンライン資格確認に関する意見を収集した内容を提示しています。
<主な意見>
・イニシャルコストが補助金の上限額を超える場合がある。
・ランニングコストが発生する(高額のため、保険点数で賄えるか不安)。
・マイナンバーカードの普及率が低い現状では、電子的保健医療情報活用加算を算定できる医療機関は限りなく少ない。
・3月20日現在、導入、運用を始めた医療機関は全国で14%との記事が報道されている。これが多いか少ないかは分からないが、もう少しシステムを簡略化すれば導入医療機関も増えるのではないか。
・セキュリティ対策(サイバー攻撃)が不安。/マイナンバーカードの情報取り扱いが不安。
・情報漏洩があった場合の責任の所在が心配。
・オンライン化により電子カルテにトラブルが生じる等、利用した事によって不利益・損害が生じた際に、医療機関の責任が問われることはないか。損害が補償されるのか。
・問い合わせ対応等(操作説明等)の増加が不安。
・保険証とマイナンバーカードが混在すると却って面倒である。
・顔認証付きカードリーダーが届かない。/専用PCや必要な機材が手に入らない。
・マイナンバーカードを持参・利用する患者さんが少ない。
・依頼してもなかなかベンダーが対応してくれない。対応が遅い。
・ルール関係・使用方法が高齢者にとって難しそう。
・マイナンバーカードではなく、保険証を持参した患者の資格情報を照会した場合、資格喪失していることは判明するが、新しい資格情報は不明である。明らかになればありがたい。
・患者さんへの周知(保険証代わりとしてのマイナンバーカード)普及が遅れている周知が必要)。
・オンライン資格確認に伴う窓口負担額の増加だけがクローズアップされており、メリットについては患者さんに全く伝わっていない。
このような意見を見ると、医療機関は体制面の不安と医療機関側の負担の増大、導入メリットの不明確、患者への周知など課題は山積みであり、普及が今後進むかを不安視する声はもっともだと感じます。そのような状況の中で、2023年1月にはオンライン資格確認の仕組みを利用した「電子処方箋」を開始を予定している政府は、健康保険証を廃止し、マイナンバーに一本化する案が出てきたのだと思われます。
オンライン資格確認の目的は?
オンライン資格確認の目的は、医療の情報基盤の整備にあります。いまだに医療機関間の情報共有は、紙やFAXが主流で、一向にデジタル化が進んでいません。情報共有をスムーズに行い、関係者(医療機関、患者)の手間を軽減することが目的でなければなりません。
デジタル化を進めるためには、①利用者が便利であること(感じること)②導入・運用が簡単であること③負担が少ないこと④高齢者のリテラシーへの配慮ーなどが重要です。強制的な考え方でデジタル化を進めるのではなく、報酬的な考え方、つまりメリットを明確にしたデジタル化を期待します。誰のために、何のためにデジタル化を進めるのか。この点こそが重要ではないかと考えます。