なぜ、クリニックでDX教育が必要なのか?
電子カルテ導入に対する反対意見
紙カルテのクリニックが、電子カルテを導入する際、現場では多かれ少なかれ反対する意見が聞こえてきます。「紙カルテのままでいいのではないか」「電子カルテになったら入力できるか心配だ」「電子カルテはかえって遅くなるのではないか」という意見です。極端な方は、「電子カルテになったら辞めます」と言ってくることさえあります。
これは電子カルテに限ったことではなく、クリニックがDX(デジタル・トランスフォーメーション)を進める上で起きる事象です。
政府の医療DX政策
政府は、医療DX政策として、2021年にオンライン資格確認が始め、2023年には電子処方箋、そして、2024年には電子カルテ情報共有サービスを立ち上げるとしています。最終的には医療機関同士が情報共有を進めるための基盤となる「全国医療情報プラットフォーム」を構築する計画です。
これらの施策を進めるためには、全医療機関に電子カルテシステムを導入する必要があり、そのため、2030年には電子カルテシステムを完全普及するという目標を政府は示しています。当然、これら医療DX政策に対しても反対意見は存在します。
なぜ、DXに反対するのか
電子カルテシステムなどDXに反対する声は、なぜ生まれるのでしょうか。人は誰しも新しいことを始める際に、どこかモヤモヤと反発する気持ちが生まれがちです。それは、いまのままで特に支障がなければ、このまま変わらない方が楽だからです。初めてのことは勇気がいりますし、それに適応するために労力がかかります。変わらないことが一番良いと考えるのは人の性(さが)だと思われます。
このままではいけないことは理解できるが…
しかしながら、「現状維持は後退である」という考え方もあり、特にコロナ禍で露呈した様々な我が国が抱える少子高齢化に伴う人手不足やデジタル化の遅れなどの課題に対して、何らかの手を打つ必要があるのです。このままでは我が国は、先進諸国から大きく後れを取ってしまうのです。この事実については、反対意見は少ないのではないかと思います。つまり、現状の課題を打破するために、DXが必要であることについて反対しているのではなく、将来の不安を解消するために、説明が足りていないことによって引き起こされる誤解が反対意見を生み出しているのではないかと考えるのです。
クリニックにとっての「DXの意味」とは
クリニックのDXに話を戻すと、クリニックが電子カルテシステムを導入する際に、どんな未来が待っているのか。DXのメリット・デメリットをスタッフにしっかり説明しておくことは、とても大切なことです。このことを私は「DX教育」と呼んでいますが、これをシステムが導入される前に行っておくことで、あとから反対意見が出てくることは少なくなるのではないかと考えます。
DX教育の範囲
さて、DX教育は、何から始めればよいのでしょうか。まずは、政府の進める医療DX施策の理解から始め、それと共にクリニックで利用されている様々なデジタルツールの関係性について説明を行う必要があります。これを行うことで、クリニックのデジタル化の事前準備をスムーズに進めることが可能となります。
また、デジタル化は近年ではクラウド技術が主流になりつつあり、便利になった反面、サイバーセキュリティの意識が重要になっています。医療界でも続々とサイバーテロによる事件が報告されており、その脅威および対策についての教育も合わせて行う必要があります。
さらに、電子カルテなどのデータベースに登録されている情報は最も機密性の高い情報とされており、2023年に個人情報保護法が改正され、診療所においても個人情報保護が義務付けされています。スタッフ全員が医療機関で取り扱う情報についての取り扱い方針を理解する必要性が出てきています。