医療分野における働き方改革
今回は、平成30年度の診療報酬改定の基本方針にも盛り込まれた「医療分野における働き方改革」について考えてみたいと思います。
診療報酬改定の基本方針で「働き方改革」を盛り込む
平成29年12月に厚労省が公表した「平成30年度診療報酬改定の基本方針」で、「医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進」が盛り込まれました。
その中で医療従事者の厳しい勤務環境が指摘されており、「医療安全や地域医療を確保するためには、医療従事者の負担軽減、専門性の発揮を可能にするため、柔軟な働き方ができるように、環境整備、働き方改革が必要だ」としています。
「医師事務作業補助者」をさらに評価
「働き方改革」の中で、重要なテーマはチーム医療の推進です。それを進めるためには、従来の医師、看護師、コメディカルなどの専門職と、それをサポートする補助職(看護補助者や医師事務作業補助者)の役割分担をどう図っていくかが重要になります。
例えば、医師事務作業補助体制加算の導入施設の調査によれば、医師の負担軽減に「効果があった」「どちらかといえば効果があった」とする施設が9割を超えています(平成26年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査)。
この結果を踏まえて、平成30年度改定では、さらに医師事務作業補助者(いわゆる医療クラーク)の配置が高く評価され、点数の大幅な引き上げがされています。
医師の事務作業から診療支援業務へ
従来、医師事務作業補助者は大学病院等で医師の事務作業を代行するスタッフを診療報酬点数で評価したものです。主たる業務は、診療に関するデータ整理や院内がん登録等の統計、カンファレンスの準備などといったものでした。
しかし、同点数が新設されて10年が経過した現在では、「文書作成補助」や「電子カルテの代行入力」など診療業務を直接支援する性格が強まっているようです。病院の受付に配置された医療事務が、電子カルテの導入に合わせて、医師事務作業補助者として医師の隣に配置転換するケースが増えてきています。
この傾向は、病院だけではなく診療所においても増加傾向にあり、現時点では診療所での配置については評価されていませんが、医師事務作業補助者の配置について対象拡大(診療所への拡大)が期待されています。
平成32年、支払基金の審査システムの刷新
業務の効率化・合理化では、保険医療機関や審査支払機関の業務を効率化・合理化を進めるとされています。診療報酬に関する届出・報告等が簡略されるほか、平成32年に予定される支払基金の審査システムの刷新の準備が進められることとなります。
平成29年7月に厚労省と支払基金が公表した「支払基金業務効率化・高度化計画」によると、「審査支払システムの刷新を行い、ICTやAI等を活用することによりシステム刷新後2年以内にはレセプト全体の9割程度をコンピュータチェックで完結することを目指す」としています。
チェックルール公開と請求前エラー修正システムで、医療機関の請求事務が大幅減少
また、審査業務の効率化を進めるポイントとしては、「コンピュータチェックに適したレセプト様式の見直し」や「コンピュータチェックルールの公開」「返戻査定理由の明確化」「請求前の段階でレセプトのエラーを修正する仕組みの導入」が提示されています。
これらの支払基金の取り組みが順調に進むことが前提ですが、その結果、医療機関は事前に公開されたレセプトチェックルールで院内チェックを行い、それで問題がなければ、請求後の返戻・査定がなくなっていくことになり、レセプト請求事務は大幅に減少することになります。これまでそれらの作業を主に担っていた医療事務の業務範囲が縮小されることが予想されます。
ICTの普及、働き方改革で医療事務の働き方が変わる
今回、次期改定の中で働き方改革の内容が盛り込まれた背景には、政府のOECD主要7か国で最も低いとされる「労働生産性」と、ここ20年間進められている医療分野でのICT活用の流れが合わさって考えられたのだと思います。
政府が積極的に医療ICTの普及を推進し、労働生産性を高めることで、少子高齢社会を乗り切ろうとしていることを受けて、医療の現場で働く人々の働き方、考え方も今後大きく変わっていく必要があります。
特に、今回紹介した事柄は、医療事務スタッフの働き方を大きく変えようとしています。従来の「受付」「レセコン操作」「レセプト請求事務」を主たる業務としてきた医療事務は、このままいくと、近い将来仕事をコンピュータにとって代わられる可能性があるのです。一方で、新たにスキルアップして、医療クラークとなって医師の診療補助を行うようになれば、生き残る時代が到来しようとしています。
執筆:大西