「働き方改革」と「医療DX」に 向けて

長引くコロナ禍の影響から、クリニックを取り巻く経営環境は大きく様変わりしています。従来の経営の考え方が当たり前ではなくなり、「ニューノーマル」と呼ばれる新しい考え方で取り組む必要が出てきているのです。コロナ禍はデジタル化を急速に進めており、政府の後押しもあってか、デジタル化する必要がある様々な検討事項が浮上しています。

 

ニューノーマルに対応する3つのデジタル化

 クリニックのニューノーマルを考える際、「感染対策」「生産性向上」「患者満足の向上」という3つの視点が大切です。

コロナ禍で広まった「感染予防」の考え方は、アフターコロナでも継続して取り組む必要があります。感染対策として、「3密」を避けるために、非接触を意識したICT活用が必要となります。また、コロナ禍の感染対策の徹底により、季節性疾患に罹患する患者が大きく減少し「患者の受診控え」も進んでいます。このような患者増が見込めない状況においては、コストを抑える行動に出る必要があり、「生産性向上」が重要となってきます。政府は少子高齢化のため「働き方改革」を推奨しており、労働時間の短縮の流れはさらに加速しています。この流れに対して、クリニックも順応する必要があります。さらに、コロナ禍では「患者ニーズ」にいかに応えるかが重要になります。例えば、飲食店は顧客ニーズが大きく変わり、自動化が進むとともに、テイクアウトにも対応しなくては生き残れない状況が出てきています。これは医療の世界でも同じで、患者のニーズに応えることができなければ、「患者から選ばれない」という状況が出てきているのです。

 

予約システム、Web問診、自動精算機

 密になりやすい待合室・受付における感染対策が必要となっています。密を避ける特効薬は「待合室で待つ」という考え方から脱却することです。診療時間が近づいてからクリニックに来院するという仕組みを取り入れる必要があるのです。それには、患者呼出し機能がある「予約システム」が有用です。予約システムを導入することで、時間による距離が確保でき、待ち時間の短縮につながります。待ち時間の短縮に成功したクリニックは、「空いているクリニックほど患者が増える」という新しい患者ニーズに対応したことになります。

また、コロナ禍では発熱患者とそれ以外の患者を区分けすることが求められており、その対策に「Web問診」の導入が進んでいます。来院前にWebで問診をとることで、感染可能性のある患者を事前に知ることができ、通常の患者と発熱患者を分けて受付をすることが可能になります。また、事前に問診をとることで、準備が前もって行えるため、オペレーションも効率的に行えると、生産性向上の点からも効果が報告されています。

自動精算機・セルフレジ・キャッシュレスといった「精算業務」の自動化は、接触を減らすことができ、人件費を下げることも可能になるため、クリニックでも導入が始まっています。精算業務の自動化は、精算業務を患者自らが行うことが可能となり、締め作業の時間短縮や釣銭が合わないという問題の解消により労働時間の短縮が図れ、接触機会が減少することが可能になります。感染予防と生産性向上という2つの効果を期待して、今後も導入が進められていくことでしょう。

 

タスクシフティングの波

「働き方改革」においてタスクシフティングという考え方が一般的になりました。医療クラークの導入は、医師の負担を軽減するのに有効であるとのことから病院が先行して導入が進み、その流れはクリニックにも到来しつつあります。また、昨今のクラウド技術、それに伴うサブスクリプション化によって、電子カルテの価格が低下しており、端末数を増やすことも可能となっており、スタッフに1台電子カルテを割り当て、医師、看護師、医療クラークが分担して入力を行うスタイルが増加しています。これまでのように電子カルテを医師がメインで利用するスタイルから、医師とスタッフが同時並行的に利用するスタイルに変更することで、生産性向上に資すると期待されています。

 

オンライン診療から始まる医療機関選別

2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令される中、時限措置として初診から電話・オンライン診療が可能になりました。令和4年度の改定で、この時限措置を恒常化するかの検討が始まっています。また、政府は同時期、電話・オンライン診療に対応する医療機関をホームページで公開しました。この情報を基に、患者がクリニックを選ぶという行動が生まれた。今後も患者による医療機関選別を進める動きは、インターネットの普及とともにさらに進んでいくことが考えられます。コロナ禍で「オンライン」の考え方が一般化しており、確実に患者ニーズの多様化を生み出しています。患者の希望に応じて、オンライン診療と対面診療を上手に使い分けることが必要になっているのです。

 

デジタル化への躊躇が格差につながる

新型コロナの感染拡大は、我々の生活様式と受療行動に大きな変化をもたらしました。感染を恐れる患者は「受診控え」という行動をとり、医療機関が「安心」「安全」と認識できなければ患者は戻ってきません。このような状況下で、クリニックは、これまでの常識を一旦否定し、新たな常識に沿った「ニューノーマル」に取り組む必要があるのです。それには、デジタル化がもたらす感染対策、生産性向上、患者満足の向上にいち早く取り組むことが大切です。患者から選ばれ、生き残るクリニックになるためには、デジタル化への躊躇が格差につながると考えます。

mailmaga

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